キャラデザ:01

大手出版社で学んだ『キャラクター学』:前書き

私は以前、フリーランスでイラストやキャラクターデザインの仕事をしており、幸運にも大手出版社での仕事に恵まれ、S氏という方に育てて頂きました。

彼は人気漫画雑誌(※)の名物編集者だった方で、作家や漫画を育てる力に長けた方でした。(※歴代最高部数でギネス記録のあるあの雑誌です)

そのS氏から、キャラクターデザインに関し、重要なことをたくさん教えて頂きました。
それは人間のDNAレベルで「本能による嗜好」に基づく考え方でした。

『人間が無意識に抱く感情』にアプローチする。
それがキャラクターデザインをする上でどれだけ重要なことかを知り、その知識は何度も私を助けてくれました。

例えば人体デッサンでは、皮膚の下にある骨や筋肉を学び、それら動きの理屈を分かった上で描く方が、目に見えるものだけを描くより、はるかに良いデッサンになります。
そして、人が体を動かした時「何故その形状なのか」「何故その位置なのか」「何故そのバランスなのか」の必然を理解することで、正しい物差しを持ち、確信を持って描くことができます。
そのため、デッサンにおける人体構造は、できるだけ早く学ぶべき基礎だと思っています。

S氏の教えは、キャラクターが見た人に与える印象は、DNAレベルの嗜好から生まれるという、基本理論のお話です。
キャラクターデザインによる、人の感情のコントロール方法は、デッサンにおける人体構造学のように、技術の前に知っておくべき基礎だと思うのです。

特に漫画のキャラクターの場合、意図したイメージを、読み手に抱かせる必要があります。
ヒーロー、ヒロイン、悪役等、役柄に応じて、かっこいい、美しい、かわいい、怖い、共感、嫌悪…といった感情を、文字ではなく、キャラクターの見た目で表現する必要があるわけです。

しかし、このS氏の「キャラクター学」には、テキストやマニュアルがあったわけではありません。

彼はとても頭の良い方でしたから、恐らくどんな漫画が売れるかを常に考え、そのノウハウをご自身の頭の中に描かれていたのでしょう。

そして仕事で関わった私のような知識の乏しいクリエイター達に、その時々のタイミングで、その知識を教えて下さったのかと思います。

ですので、もしかしたら他ではあまり語られていない話なのかもしれません。

大変残念なことにS氏はお亡くなりになられ、直接そのお話を聞くことはできません。

そこで私が学ばせて頂いたことや、学びから気付いた事などを、少しずつ皆さまにお伝えしたく思います。そして少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

S氏のご冥福をお祈りするとともに心からの感謝を捧げます